この事例の依頼主
50代 女性
父親が死亡し(母親は先に亡くなっていました)相続人は姉と妹という事案で、妹さんがご相談に来られました。父親が亡くなる4年ほど前から、姉が父親と一緒に住み父親の世話を行っていました。父親は預貯金や不動産を持っていましたが、具体的な金額や不動産の価値について妹さんは全く知らず、ただ十分な資産があるということだけは聞き知っていました。父親が亡くなった後、不動産は姉が相続し預貯金は姉妹で平等に分けようという話になりました。しかし、預貯金額を聞いたところ500万円しか残っていないという話を姉から聞き、おかしいと思い始め、姉から詳しく話を聞こうとしました。すると姉は次第に妹さんを避けはじめ、最後には連絡がつかなくなりました。そこで、困った妹さんは、公平な遺産分割を求めたいということで弊所に相談に来られました。
まず、亡き父親の預貯金に関する情報を、姉から聞き出すことから手続きを始めました。最初はこちらに対して何も話してもらえませんでしたが、粘り強く連絡・交渉し、亡き父親名義の銀行口座を突き止めることができました。その後、直ぐに銀行口座の取引履歴を取り寄せて内容を調べたところ、父親が亡くなる3年前ほど前から、数十万円づつ長期にわたって引き出されていることが分かりました。合計金額は2000万円以上に及びました。姉に確認したところ引き出したのは父親本人であるということでしたが、父親の生前の病状を確認したところ、姉と同居後間もなく認知症を発症しており、とても自身で引き出せるような状態ではないことが分かりました。上記の事情が判明した時点で、当所は速やかに遺産分割調停を申し立てました。結果的に、引き出していた預貯金のうち姉がまだ保管していたものについて、姉が不動産を相続することと引き換えに、大部分の返還を妹さんが受ける形で合意ができました。
故人と同居していた人が、故人の亡くなる直前に預貯金を引き出してしまうことは、しばしば見られるところです。そこで銀行口座の取引履歴の確認が必須となりますが、そもそも何処の銀行に口座が開設されていたか分からなければ調査は難航します。その場合、同居していた者から粘り強く話を聞き出すこと、また故人の居住していた家に残っている遺品や居住地の付近に所在する銀行の調査など、あらゆる角度から銀行口座を調べることになります。場合によっては調査会社に依頼することもあり得ます。相続人の一部の者が預貯金を引き出していた事実を証明できるだけの資料が揃った場合、速やかに遺産分割に向けた調停等の手続きに着手することが必要です。上記の事例のように、相続人の一人のみが故人と密接した関係にある場合、他の相続人の知らないところで故人の財産が不当に処分され、結果、不公平な遺産分割がなされる場合があります。弁護士に依頼したとしても、必ずしも紛争化するわけではありません。故人の資産について少しでも疑念を持たれた場合、まずは弁護士にご相談されることをお勧めします。