この事例の依頼主
80代以上 男性
相談前の状況
会社を経営する高齢の父親より、会社経営権を長男に承継させたいとして相談があった。法定相続人は、妻、長男、次男、三男である。長男は父親とともに会社の代表取締役、次男、三男は、専門資格をもち独立開業しており、会社を継ぐ予定はない。父親の遺産は、会社の株式(100%)、自宅建物、自宅及び会社所有の工場敷地、現預金、遊休不動産であった。
解決への流れ
問題となったのは、会社の株価が高かった為、会社の株式を長男に取得させた場合、長男の納税資金が足りないということであった。ただ、この点は、会社に相応の現金があった為、父死亡後、死亡退職金を出すとともに、その受給者を長男に指定することで、納税資金が準備できることが判明した。そこで、退職金規程を作成し、死亡退職金の支払いを可能にするとともに、需給権利者を指定することが出来ることとした。そうすると、今度は、長男への相続分が多すぎて、次男、三男の遺留分を侵害する形となった。遺留分とは、必ず相続できる割合のことであり、本件では、次男、三男とも、12分の1の遺留分があった。そこで、会社の株式の15パーセントずつを次男、三男に相続させることとし、長男の会社株式の相続分を70パーセントに限定した。70パーセントの議決権を有していれば、会社の経営判断の重要なことは、長男のみで判断することが出来る。更に、納税額を抑えるために、父から長男に、毎年少しずつ、会社の株式を贈与させることとした。次男、三男が取得した会社の株式については、会社の資金繰りを見ながらではあるが、最終的に、会社が買い取ることを予定している。
同族会社の株式の相続については、会社の継承者である法定相続人に集中的に相続させることを原則とするが、他の相続人の遺留分を侵害するような事態となることがある。その場合には、会社の継承者に、3分の2を限度に会社株式を相続させ、残り3分の1の株式は、他の相続人に相続させるといったことが考えられる。また、どうしても、3分の1以上の株式を他の相続人に相続させなければならないような場合には、一部を無議決権株式とすることもあり得る。また、本件では、依頼主が80代になってから相続対策を真剣に考え始めた為、通常よりかなり遅いスタートといえる。その背景に、早く株式を手放すと、会社経営に自分の意思を反映させることが出来なくなるといった心配があった。ただ、節税対策の為には、もっと早目に長男に会社株式を贈与するべきであった。父親が会社経営権を確保する方法としては、役員選任権付き株式等、特別な議決権を有する株式を創出して、自分の手元に残すなど、さまざまな方法がある。会社の経営権の承継と株式の承継が必ずしも一致しないということも念頭に置いて、相続対策を検討する必要がある。