この事例の依頼主
50代 男性
会社経営者の母親が死亡した案件で、母親の生前、銀行から3億円近くの預金が払い戻され、費消されているとして、長女から相談があった。法定相続人は、長女と長男のみである。遺言は存在しない。また、母親名義で、死亡直前に購入されている自宅があり、そこには、長男が生活していた。そのほか、不動賃貸業を行っているA社及びB社の株式があった。この二社に関し、A社については、法定相続の株式を含めると姉が過半数を保有していた。B社については、弟が法定相続分の株式を含めると過半数を保有すると主張していた。
預金については、銀行に照会をかけたところ、生前、母親を連れて、長男が3億円の払戻をしていることが判明した。長男との交渉の過程で、このうち1億5000万円は、母親名義の自宅購入資金に使われていることが分かった。なお、不動産の売買も長男が母親の代理で行っていた。また、5000万円については、長男が自分の会社の資金繰りにあてており、残り1億円は、私的に費消しており、既に、存在しないことが判明した。更に、B社については、母死亡後、約二年間、毎月100万円の役員報酬を、長男が勝手にもらっていることも判明した。そこで、まず、B社に関し、過去の議事録等資料を精査したところ、法定相続分の株式を含めても、お互い50%ずつの保有数になることが判明した。しかし、長男がこの点について争っていた為、遺産の範囲を確定する必要が生じ、株主権確認訴訟を提起し、勝訴判決を得た。これにより、B社の株式についての保有割合が姉弟50%ずつであることが確定し、同時に、弟が受け取っていた役員報酬の根拠がないこととなった。この後、遺産分割についての最終解決を図る為調停を申し立て、話し合いを重ねたところ、最終的には、長男は自宅から退去し、自宅を売却した上、長女が売却金額を全て取得すること、A社B社とも、長女が代表者に就任すること、長男が不当に取得した役員報酬相当額と同額を、長女がB社から役員報酬としてもらうこと、を内容とする合意が出来、長女としては、正当な相続分を取得することが出来、かつ、会社の経営権を確保することが出来た。
被相続人の生前、多額の預金が払い戻されているといったケースは多い。通帳が手元にない場合には、銀行預金については、残高のみではなく、取引履歴を必ず取得することが必要である。また、遺産分割調停では、当事者間で遺産であることの合意がある財産しか分割できない。相手が遺産であることを認めていない財産がある場合には、まず、遺産であることの確認訴訟を提起しなければならない。訴訟手続きと調停手続きの二つの手続きを経る必要があり、最終解決までにかなりの時間を要する為、すみやかな手続きが望まれる。