この事例の依頼主
60代 男性
ご相談者A氏の実母が亡くなりましたが、その実母と一緒に住んでいた妹のB子さんが、実母の遺産たる金融資産の残高(千数百万円)しか明らかにせず、通帳等を一切開示しようとしないため、遺産分割の協議が一向に進みませんでした。そこで、A氏が対応について相談に来られました。
まずA氏の実母との結び付きのありそうな金融機関について、実母の相続人たるA氏の代理人として片っ端から調査を行い、過去10年分の実母名義の口座の取引履歴を取るなどしました。そして、その取引履歴を確認したところ、一部の金融機関で、複数回にわたって高額の預金の払い戻しがなされていることが判明しましたので、その払戻金の流れについて、その金融機関に書面で照会を行ったところ、過去に合計千数百万円の金額が実母名義の口座からB子さん名義の口座に振り替えられていたことが判明しました。また、複数あった不動産に関しては、公証役場への問合せで、各相続人に割り振って相続させる旨の公正証書遺言がされていたことが判明しました。遺産調査完了後、A氏の代理人としてB子さんに正式に遺産の任意開示を求めましたが、回答がなかったため、家庭裁判所に遺産分割調停を申立てました(不動産に関しては、公正証書遺言が作成されていたので、遺産分割の対象外でした。)。そして、調停申立書に添付する事情説明書には、金融機関に対する調査結果に基づいて使途不明金について詳細な説明を行いました。調停期日において、B子さんから、A氏が使途不明金について追及しないのであれば、現存する預貯金(千数百万円)はすべてA氏が相続することでよいとの申入れがありました。結果として、使途不明金を全額返還させた上で預貯金とともに相続人間で2分の1ずつ分けるのとほぼ同じ条件となるため、A氏はB子さんからの申入れを受諾することとし、1回目の期日で遺産分割調停が成立しました。
使途不明金については、本来であれば遺産分割の対象外で、別途訴訟で解決するのが筋です。しかしながら、きちんとした裏付資料があれば、調停委員もそれなりにとり合ってくれて、話合いによる解決のために相手方を説得してくれるように思います。本件は、事前の綿密な調査によって使途不明金の裏付資料を得ていたことが功を奏しました。