この事例の依頼主
40代 男性
Cさんは40代の自営業者の男性で、ある日、追突事故に遭い、むち打ちとなってしまいました。Cさんは、首や腰が痛かったことから、整形外科に通院していましたが、事故から3か月程度経った頃、保険会社の担当者から、もう3か月経つので、そろそろ治療費の支払は終了となりますと言われてしまいます。保険会社の担当者より、むち打ちの治療期間は3か月程度と相場が決まっているとの説明を受けましたが、Cさんは、まだ首や腰の痛みが残っていたため、リハビリを続けられなくなるのは困ると思いました。弁護士費用特約というものに加入していたことから、弁護士に相談してみることにしました。★法律相談Cさんに対しては、まず、「むち打ちの治療期間は3か月程度と相場が決まっている」という保険会社の担当者の説明がウソであることを説明しました。そんな相場はありませんし、敢えて相場を言うとしたら、Cさんのように症状が残ってしまっているむち打ちのケースですと、治療期間の相場は6か月です。また、保険会社の担当者の説明に従って3か月で治療終了してしまうと、慰謝料額が低くなりますし、また、むち打ちの症状が残ってしまったとしても後遺障害等級の認定が受けづらくなってしまうことを説明しました。そこで、主治医の先生の見解に従いながら、最低6か月は通院するようにし、それでも症状が残るようであれば後遺障害等級の申請をするという方針で進むことにしました。加えて、後遺障害等級の認定が得られた場合と得られなかった場合の損害賠償額の違いや、むち打ちで後遺障害等級を獲得するためのポイントについても説明致しました。
1 治療費打切り阻止の交渉保険会社の担当者は、交通事故から3か月で治療費の支払を打ち切ろうとしていましたので、まずはこれを阻止するための交渉をしました。弁護士介入後、電話一本で治療期間を延長してもらえることもありますが、保険会社内で既に治療費打切りの方針で固まっていたため、電話をしただけでは、治療期間の延長に応じてもらえませんでした。そこで、主治医の先生に対して医療照会を実施し、Cさんの適切な治療期間についての医学的な見解を頂くことにしました。主治医の先生は、3か月経過した現在でもCさんに症状が残っていたことから、まだリハビリが必要である旨おっしゃってくれましたので、その内容で医療照会回答書を作成頂き、これを保険会社の担当者に提出しました。そうしたところ、保険会社の担当者も、社内方針を変更し、治療期間の延長を認めてくれました。2 むち打ち症の後遺障害等級の申請Cさんには特に椎間板ヘルニアなどの画像上の異常所見はありませんでしたが、通院6か月の治療を経ても、首や腰の痛みは完治しませんでした。そこで、当初方針どおり、後遺障害等級の申請手続に進むことにしました。むち打ち症で後遺障害等級を獲得するためのポイントは簡単に説明すると、①後遺障害診断書に余計なことは書かない、②プラスとなる所見については書いてもらう、③症状の推移に不自然さがないことを立証する、④事故態様の強さや身体にかかった衝撃の強さを立証する、このあたりが重要となってきます。これらの注意点を踏まえ、後遺障害診断書や症状の推移などの医学的証拠を取り付けて、後遺障害等級の申請をしたところ、見立てどおり、後遺障害等級併合14級を獲得することができました。3 示談交渉の決裂獲得した後遺障害等級併合14級を元に示談交渉を行いましたが、保険会社の判断は渋いものでした。Cさんは自営業者なのですが、交通事故の前は赤字申告をしていました。これは節税の観点でなされていたもので、経費として挙げている車をプライベートでも使っているなどしていて、実際は、Cさんに所得があるような状況でした。ただ、保険会社の担当者としては、資料に基づいて休業損害や逸失利益の判断をせざるを得ませんので、そもそも収入がなかったのなら、交通事故によって収入が減少することもないとして、休業損害や逸失利益は0円であるとの提案を行ってきました。こうしたこともあり、保険会社の示談提案額は既払金を除いて80万円というものでした。後遺障害等級14級を獲得した追突事故で示談金80万円というのは低額に過ぎますので、Cさんの了解を得たうえで、裁判をすることにしました。4 民事裁判この裁判の大きな争点は、保険会社から0円の提示を受けていた休業損害や逸失利益をいかに裁判所に認めてもらうかという点です。Cさんが赤字申告をしていたのは事実ですから、これは裁判でも不利に働くことになります。Cさんにも厳しい戦いになることは説明した上、資料収集などに協力してもらいました。具体的には、交通事故前3年分の契約書・請求書・見積書・領収証・預金通帳などの資料をすべて洗い出し、Cさんに所得があったことを立証します。また、クレジットカード明細、家計収支表、日常生活で支出したお金に関するレシートなども洗い出し、Cさんの生活状況を立証します。以上の分析から、主張立証を行った結果、横浜地方裁判所の裁判官は、休業損害と逸失利益で190万円強を認定してくれ、既払金を除き320万円の和解金を獲得することができました(保険会社示談提示額の4倍)。
【解決事例のポイント】① 弁護士介入により治療費の打ち切りを阻止② 弁護士による後遺障害等級の申請によりむち打ちで併合14級獲得③ 保険会社示談提案80万円⇒360万円で解決(4倍以上)④ 確定申告が赤字申告だったが休業損害と逸失利益190万円以上を獲得【コメント】①保険会社の治療費打切りを鵜吞みにしてはいけませんCさんは、保険会社の担当者から、むち打ち症の場合、治療期間の相場は3か月くらいという説明を受け、素直に信じてしまいそうになったそうです。しかし、この保険会社の担当者の説明はウソです。そもそも、治療期間を判断する権限は主治医にありますので、保険会社の担当者には治療期間がいつまでかを判断する権限はありません。Cさんのケースのように、弁護士介入により、治療費支払期間が延長されることは多々ありますので、治療費の打ち切りを言われている方については、被害者側専門の弁護士に相談されることをおすすめします。②自営業者の場合の休業損害や逸失利益は弁護士に請求してもらいましょう自営業者というのは、経営努力をしなければなりませんから、節税の観点で必要経費算入を行っていることが多いです。しかしながら、交通事故の損害賠償請求では、これがあだになることがあります。Cさんのケースでも、保険会社の担当者から、休業損害や逸失利益は0円であると言われてしまいました。しかし、毎年赤字を続けていては生活できませんので、実際は、実質所得と認定できるものが含まれていることが多いです。交通事故の損害賠償請求において、確定申告上の所得とは異なる実質所得を認定させるには専門のスキルがいりますので、自営業者の方が交通事故に遭われた場合は、被害者側専門の弁護士にそうだんされることをおすすめします。