この事例の依頼主
30代 男性
福岡市に住む30代の会社員男性Gさんは、バイクでの通勤の途中、青信号のため交差点を直進しようとするにあたり、対向から右折進行してきた四輪車と衝突し、右脛骨や腓骨の開放骨折、右第3・4中足骨骨折の傷害を負って、入院することになります。Gさんの治療は3年弱かかりましたが、完治することなく、症状固定を迎えました。通っていた整骨院の先生から、酷いケガだし、一度弁護士の先生に話を聞いてみたら?と言われ、弁護士に相談することにしました。★法律相談Gさんは症状固定を迎え、後遺障害診断書を書いてもらっていたため、それを見せてもらいました。そこには、自覚症状として、右足の関節の痛みが書かれています。しかしながら、Gさんに、実際の症状を聞くと、右足関節以外にも痛みが生じていたのと、右足が垂れ下がるような症状を呈していたことから、骨折をした部位や程度から考えると、腓骨神経麻痺が疑われる状態となっていました。腓骨神経麻痺により足指が自分では動かしづらくなっていましたが、足指の可動域制限の記載もありません。また、Gさんが一部保有していた骨折部のレントゲン写真を見ると、明らかに偽関節が疑われる状態となっていましたが、偽関節の記載が「長管骨の変形」の欄に記載がない状態となっています。この後遺障害診断書では、後遺障害等級12級程度にしかならない可能性があると考え、弁護士介入の上、後遺障害診断書の訂正や後遺障害等級の申請を行った方が良いという結論に至り、受任しました。
第1 後遺障害診断書の訂正1 医師面談の準備後遺障害診断書の訂正ができるのであれば、した方が良い事案であると考えていましたが、訂正のお願いは1回勝負ですので、その前にできる準備を行いました。具体的には、Gさんが3年弱の間に通った病院の医証を取り付け、それの分析を行います。分析が終わった後は、いよいよ後遺障害診断書の訂正お願いのための医師面談になります。2 医師面談主治医の先生にアポイントを取り、医師面談を実施します。医師面談の際には、事案を頭に入れることや、考えられる後遺障害等級の要件を頭に入れておくことは当然ですが、それに加えて、お会いする先生の経歴や論文なども調べておきます。今回お会いする先生は、かなり脚の骨折について詳しいことが予想されましたので、こちらとしても緊張する医師面談となりました。主治医の先生との話を通じて、下記の後遺障害診断書修正に成功しました。①傷病名の追記(右総腓骨神経障害・右足関節拘縮・右第3~4中足骨骨折の追加)②自覚症状の追記(右膝痛、右足趾痛、右下垂足等の追加)③他覚症状および検査結果の追記(偽関節・腓骨神経障害・関節拘縮の説明の追加)④長管骨の変形の追記(仮関節・偽関節)⑤可動域制の追記(足指の可動域制限)第2 自賠責による後遺障害等級の認定(併合6級)1 偽関節8級9号(短縮障害を含む。)後遺障害診断書の追記の甲斐あり、偽関節で後遺障害等級8級9号が認定されました。2 足関節の著しい機能障害10級11号(右足関節痛を含む。)可動域制限の数値が出ているだけでは後遺障害等級の認定はされませんが、右足関節拘縮の説明をしていただいておりましたので、医学的な裏付けもありと判断されるに至りました。3 右足指全部の用廃9級15号腓骨神経麻痺を医学的に説明してもらうことにより、自動運動の比較にて後遺障害等級の認定を行うことが可能になり、後遺障害等級9級15号の認定をしてもらえることになります。4 後遺障害等級の相当処理と併合処理Gさんの場合、右足関節機能障害10級11号と右足指関節機能障害9級15号とが、同じ右下肢内の機能障害の話ですので、併合の方法を用いて重い方の9級15号を1つ繰り上げ、8級相当という1つの後遺障害等級とします。従いまして、Gさんの後遺障害等級は、偽関節の8級9号と、右下肢機能障害の8級相当の2つになります。そうすると、後遺障害等級8級以上の等級が複数ある場合はその中で1番重たい等級が2つ繰り上がるというルールを使うことになり、2つ繰り上げて併合6級ということになります。第3 示談交渉Gさんの希望もあり、裁判するつもりはありませんでしたが、訴状を作成し、すべての損害を証拠によって裏付けてそれを提出しました。保険会社の決裁は、担当者限りで示談するか否かを判断できる金額、担当者の上司の決裁を経なければ示談するか否かを判断できない金額、上司の決裁でも足りず本部の決裁を経なければ示談するか否かを判断できない金額というのがありますが、Gさんのケースでは、これらを超えて、本部決裁でも足りず取締役会の決裁が必要ということになりました。保険会社からすれば、支出が大きい事案であるため、慎重な判断をすることは当然ともいえますが、証拠をガチガチに固めていたことが奏功し、実収入以上の基礎収入額が認定されるなどして、計5500万円での示談解決となりました。
【解決事例のポイント】① 医師は後遺障害等級認定のプロではない。後遺障害診断書に書き漏れがあれば修正してもらう。② 後遺障害等級12級が考えられるような後遺障害診断書に対して、弁護士が腓骨神経麻痺やそれに伴う足指の自動運動制限、また、偽関節の加筆を医師に促し、後遺障害等級併合6級を獲得。③ 後遺障害等級の方針を立てる際は相当と併合の関係も意識する。④ 示談交渉では担当者決裁のみならず、本部決裁や役員決裁も頭に入れながら行う。⑤ 訴状を用いた交渉により5500万円で示談解決【コメント】後遺障害診断書の修正によって後遺障害等級は変わります。Gさんは、とりあえず弁護士に相談してみようという程度の気持ちで法律相談に訪れていましたので、まさか後遺障害診断書を訂正するとは思っていなかったみたいで、驚いておられました。今回医師面談に応じてくださった先生は、当然ですが、私よりも医学的知識や理解は豊富です。しかしながら、後遺障害等級の要件や、どのような後遺障害診断書だと適切な等級を獲得できるかについては、私の方が詳しいです。後遺障害診断書というのは、純医学的なものではなく、後遺障害等級の申請のために書いていただくものですから、記載には後遺障害等級の要件についての理解とコツが要ります。もちろん、真実ではないことを書いてもらうようなことはしませんが、どこまでの事実を書いたらいいのかは、被害者側専門の弁護士でなければ分からないことがあります。主治医に後遺障害診断書を書いてもらったという方については、一度、被害者側専門の弁護士に相談されることをおすすめします。本件のように、後遺障害診断書の書き漏れのため、そのまま提出していたのでは、適正な後遺障害等級が獲得できないということがあるからです。当事務所では、無料の法律相談を実施しておりますので、お気軽にお尋ねください。