この事例の依頼主
30代 男性
私は、妻との間に子供が一人いますが、子供が生まれてすぐぐらいのころから、価値観や性格が合わず、夫婦仲が悪くなり、別居に至りました。子供は妻が連れて出て行きました。別居は4、5年続き、その間、やり直そうと試みたこともありましたが、結局うまくいきませんでしたので、私達は、別居状態のまま、離婚しようということになりました。子供の親権は、妻に譲らざるを得ず、妻からは、「生活費も養育費もいらない。早くあんたと別れたい。」とまで言われました。私は妻の求めに応じ、私の欄に記載をした離婚届用紙を郵送しました。その後、妻からは何の連絡もなかったため、私はてっきり妻が離婚届を役所に提出してくれたものと思い込んでいました。ところが、それから約10年後、私がたまたま用事があって戸籍を取り寄せたところ、まだ離婚届が提出されていなかったことがわかり、驚愕しました。私はあわてて妻に手紙を送り、事情を問いただそうとしましたが、何の返事もありませんでした。私はどうしたら良いか途方に暮れてしまい、弁護士に依頼しました。
弁護士は、まず交渉での離婚を試みましょうと言って、妻に連絡をしてくれました。そうしたところ、妻もすぐに弁護士を立ててきましたので、その後は代理人同士のやり取りになりました。妻は、この10年、私と一切の連絡をしていなかったのにもかかわらず、弁護士がついたとたん、生活費と養育費を払って欲しい等と求めてきました。また、何を思ったのか、慰謝料を請求したいとも言ってきました。私は、離婚成立までの生活費と、離婚後の養育費を払うことは了解しましたが、妻との間で、なかなか金額について折り合いがつきませんでした。代理人同士の交渉は、半年近くに及び、その間、合意が成立しそうになったこともあったのですが、結局は、やはり折り合いがつかず、交渉は決裂しました。私は、時間をあまりかけずに離婚したかったので、交渉での解決を希望していたのですが、その後、交渉が再開できる見込みはないだろうと弁護士から言われました。そうすると、離婚に向けてステップを進めるには、調停を申し立てるしかないことになりますが、家庭裁判所の管轄が相手方の住所地である、関西の某県(私は東京在住)になってしまうので、弁護士の日当や交通費もかかるし、困ったと思いました。また、調停で合意ができなければ、今度は離婚訴訟を提起しなければならず、離婚までの道のりが遠すぎて、絶望しそうになりました。この点、弁護士によると、確かに基本的には離婚訴訟の前にまず離婚調停を申し立てる必要があるが、私の案件は、既に離婚について双方代理人がついて、半年近くも話し合ったのに折り合いがつかず、今更調停をしても同じ結果になる可能性が高いし、相手方の住所地の裁判所まで行くのもかなりの負担であるから、思い切っていきなり離婚訴訟を提起しようとのことでした。私は、少しでも時間を節約できるならと思い、そうしてもらったところ、事件は調停に付されることなく、訴訟として審理されることになりました。これに対し、妻側が抵抗して、移送の申立をしたり(却下されました)、反訴を提起したりしてきたため、その分時間を取られましたが、最終的に、提訴から約1年半で、ほぼ私の希望が通る内容での訴訟上の和解が成立し、離婚することができました。
協議での離婚ができない場合、我が国では、調停前置主義といって、離婚訴訟の前にまず離婚調停を申し立てる必要があり(家事事件手続法257条1項)、調停を申し立てずにいきなり訴訟を提起しても、裁判所は職権で事件を調停に付することになります(同条2項)。もっとも、例外的に、裁判所が事件を調停に付することが相当でないと認める場合には、この限りではありません(同条同項但書)。本件では、相談者は15年近く妻と別居しており、妻に離婚届用紙を託してからは、一切連絡を取っておらず、妻からも金銭的請求なども全くありませんでした。また、離婚が成立していないことがわかった後に、代理人を通じての離婚交渉を半年しても、結局何も決まりませんでしたので、今更調停を申し立てたところで、それで離婚が成立するとは到底考えられないケースでした。しかも、交渉中、妻は相談者に対する慰謝料請求をほのめかすようになっており、なおさら、調停したところで、離婚の合意が成立するとは考えられませんでした。そのため、思い切って、調停ではなく離婚訴訟をいきなり提起したところ、裁判所もこれを認めてくれました。妻側は、抵抗のつもりか、移送を申し立ててきましたが、これも裁判所は却下しました。その結果、相談者の住所地の家庭裁判所で訴訟が進行することになり、相談者も、余分な交通費や弁護士の日当を支出することなく、また、調停で時間を取られることなく済みました。